漢字ワールドものがたり 第3部 城の中の小さな声
第1話追いかけちゃだめ!
小さなウサギは、石の階段をかけ上がっていた。
白いしっぽが、ぴょんぴょんとはねている。
「待ってよ!」
ソラは、ウサギのあとを追いかけた。
「ソラ、速いな!」
レイも足を速めた。
「でも、俺だって負けないぞ!」
レイはソラのとなりを走りぬけた。
アカリとタクミ、シンも、少し後ろから石段を上っていく。
ルウはみんなのそばを飛んでいた。
石段は、思っていたよりも長かった。
一段一段は低いけれど、上の方までつづいている。
「もう少しで追いつけそうだ!」
レイはウサギに近づいた。
ところが、ウサギは耳を後ろにたおし、急に足を速めた。
「あっ、また逃げた!」
ソラも急いであとを追った。
ウサギは石段の上にある広い場所まで走ると、いったん立ち止まった。
そして、後ろをふり返った。

「今なら追いつける!」
レイはまた走り出した。
そのとき、ルウが声を上げた。
「レイ、ちょっと待って!」
「えっ?」
レイは走りながらふり返った。
「どうしたんだ?」
ルウはウサギの方を見ていた。
「さっきから、みんなが近づくと、あの子も走り出すんだよ」
レイはウサギを見た。
ウサギはまた体を小さくしている。
「でも、追いかけないと、どこかへ行っちゃうだろ?」
「そうかもしれないけど……」
ルウは少し考えた。
ウサギは、レイたちが近づくたびに走っている。
でも、はなれているときは、ときどき立ち止まっている。
「ねえ、レイ。いったん止まってみない?」
「止まる?」
レイはおどろいた。
せっかくここまで追いつめたのに、止まってしまっていいのだろうか。
俺なら、もっと速く走れる。
あと少しで、ウサギのそばまで行けるかもしれない。
でも、ルウの言うことも気になった。
レイは、もう一度ウサギを見た。
その小さな体は、今にも走り出しそうに見えた。
「……分かった。止まってみよう」
レイは石段の途中で足を止めた。
「ソラ! ちょっと止まってくれ!」
「えっ? どうして?」
「いいから、少しだけ!」
ソラもあわてて足を止めた。
アカリたちも、二人のそばで立ち止まった。
六人は、石段の上にいるウサギを見つめた。
ウサギは、しばらく動かなかった。
長い耳だけが、小さく動いている。
「どうなるのかな……」
ソラが小さな声で言った。
ルウは羽をたたみ、みんなといっしょに待った。
すると、ウサギはゆっくりと耳を起こした。
その場で少し体を動かし、前を見た。
そして、ぴょん、と一歩進んだ。
「あっ、動いた!」
アカリが小さな声を上げた。
レイは思わず足を出しかけた。
けれど、すぐに止めた。
ウサギは、もう一歩進んだ。
さっきのように、急いで走ってはいない。
「ほんとだ……」
レイは小さくつぶやいた。
「俺たちが止まったら、あの子も急がなくなったな」
「うん。近づかれるのが、こわかったのかもしれないね」とルウ。

ソラはウサギを見ながら、少し考えた。
「ぼく、あの子を近くで見たかったんだ」
「うん」とルウ。
「でも、ぼくたちが追いかけたから、逃げちゃったのかな」
「そうかもしれないね」
アカリも、ウサギを見つめた。
「わたしたちは会えてうれしかったけど、あの子はびっくりしたんだね」
「そうだな」とレイが言った。
「俺も、追いつくことばっかり考えてた」
レイは、さっき走ってきた石段をふり返った。
速く走れば、追いつけると思った。
けれど、ウサギも速く走ってしまった。
自分が止まると、ウサギも急がなくなった。
「速く追いかけるだけじゃ、だめなんだな」
そのとき、ウサギがまた動き出した。
ぴょん、ぴょん。
石段を上り、いちばん上の広い場所へ出た。
「行っちゃうよ!」
ソラが思わず言った。
レイも、すぐにあとを追いたくなった。
でも、今はちがう。
「少しはなれて行こう」
レイが言うと、ソラはうなずいた。
「うん! またびっくりさせないようにね!」
六人は、ウサギから距離をとりながら、石段を上り始めた。
ウサギはときどきふり返ったが、さっきのように急いで走ることはなかった。
ルウも、みんなの歩く速さに合わせて飛んだ。
石段を上りきると、そこには長い廊下がつづいていた。
廊下の両側には石のかべがあり、細長い窓から光がさしこんでいる。
「わあ、まだ先があるんだ!」
ソラは目をかがやかせた。
「お城って、広いんだね!」とタクミ。
レイは廊下の先を見た。
ウサギは、廊下の奥にある木のとびらの方へ進んでいく。
「あっ、あそこ!」
ルウが羽でさした。
ウサギはとびらの下にある小さなすき間に鼻を近づけた。
そして、体を低くして、するりとくぐりぬけた。
「あれっ!」
ソラはとびらの前まで歩いた。
木のとびらは、ぴったりとじているように見える。
けれど、下にはウサギが通れるだけのすき間があった。
「ぼくたちは、ここを通れないよ!」
タクミが、とびらの横を見た。
「これ、動かせるのかな?」
タクミはそっと手をかけた。
ごとっ。
とびらが少し動いた。
「おっ、動いた!」
ところが、そこで止まってしまった。
タクミは首をかしげた。
「おかしいな。まだ動きそうなのに……」
レイは、とびらの奥を見つめた。
ウサギの足音は、もう聞こえない。
でも、あわてて追いかけても、また逃げてしまうかもしれない。
「まずは、このとびらをたしかめよう」
レイが言うと、タクミもうなずいた。
「うん! ぼく、ちょっと調べてみる!」
六人は、長い廊下の木のとびらの前に集まった。
その向こうには、まだ知らない城の中がつづいていた。