漢字ワールドものがたり 第3部 城の中の小さな声
第3話ころがす工夫
「うーん、こまったなあ」
アカリは、大きな木だるを見つめた。
六人の前には、塔の上へつづく石の階段がある。
けれど、階段の入り口には、木だるが二つならんでいた。
どちらも、アカリの腰くらいまである大きなたるだった。
「ウサギは、あのすき間を通ったのかな?」とソラ。
たるの横には、小さなすき間があった。
ウサギなら通れそうだが、ソラたちにはせますぎる。
「俺たちは、通れそうにないな」とレイ。
アカリは、たるの横へ回った。
「じゃあ、これをどかそうよ!」
アカリは両手でたるを持ち上げようとした。
「よいしょっ!」
けれど、たるはびくともしなかった。
「うわっ、重い!」
シンもとなりに来た。
「どれ、わしもいっしょにやってみよう」
二人でたるのふちをつかみ、ゆっくり持ち上げようとした。
「せえの!」
ぐぐぐっ。
たるは少しゆれただけで、地面からはなれなかった。
「だめだあ!」
アカリは手をはなした。
シンもたるから手をはなした。
「このまま持ち上げるのは、むずかしそうじゃな」
ソラが言った。
「だったら、みんなで持ったらどうかな?」
「でも、持つところが少ないよ」とタクミ。
レイも、たるの丸い形を見た。
「手がすべったら、あぶないな」
アカリは、もう一度たるを見つめた。
たるの上と下は平らだけれど、まん中は丸くふくらんでいる。
どうすれば、こんなに大きなものを運べるのだろう。

アカリは、たるのまわりを歩いてみた。
そのとき、たるのふくらんだところが目に入った。
「あれ? これって、横にしたらどうなるのかな?」
「横に?」とシン。
「うん。まん中が丸いでしょう?」
アカリは、たるの形を手でなぞった。
「立てたままじゃ持ち上がらないけど、横にしたら、ころころって転がせるんじゃない?」
シンは、たるの丸い部分を見た。
「なるほど、丸いところを下にすれば転がりそうじゃ」
アカリはうなずいた。
「やってみよう!」
けれど、すぐに手をのばさず、たるのまわりを見た。
階段の方へ転がしたら、下へ落ちたり、だれかにぶつかったりするかもしれない。
「でも、どっちへ転がせばいいんだろう?」
シンも、たると石の床を見くらべた。
二人は、階段と反対がわにある平らな場所まで歩いた。
そこには、石のかべが少しくぼんだ場所があった。
「ここなら、たるを置けるんじゃない?」とアカリ。
シンは、くぼみの中をたしかめた。
「床も平らじゃな。ここまでなら運べそうじゃよ」
「よし! こっちにしよう!」
二人は、みんなのところへもどった。
アカリは、たるを転がして運ぶことと、置く場所を見つけたことをつたえた。
「おもしろそう!」とタクミ。
「でも、転がりすぎないようにしないとな」とレイ。
「うん、ゆっくりやろう!」とアカリ。
まず、アカリとシンがたるの横に立った。
レイも反対がわに回り、たるが急に動かないように手をそえた。
「少しずつ、たおしてみよう」
アカリの声に合わせて、三人はたるをゆっくりかたむけた。
ごとん。
たるの丸い横が、石の床についた。
「あっ、できた!」
アカリは、たるに両手をそえた。
「じゃあ、転がすよ!」
ぐるん。
たるが少し回った。
さっきは持ち上がらなかったのに、今度はゆっくり動いた。
「ほんとだ! 動いた!」
ソラが目を丸くした。
「持ち上げなくても、運べるんだね!」とルウ。
アカリとシンは、たるの速さを合わせながら転がした。
レイもそばで手をそえ、タクミは石の床に何もないかをたしかめた。
「もうちょっとだよ!」とソラ。
たるは、少しずつかべのくぼみに近づいていった。
「ここで止めよう!」
アカリが声をかけると、みんなはたるをゆっくり止めた。
くぼみの中に置いても、丸いたるは少し動こうとした。
「あっ、まだ転がる!」
タクミが、近くにあった小さな木のかけらを持ってきた。
「これを下にはさんだらどうかな?」
アカリは、たるの両がわに木のかけらをそえた。
シンも、手をはなして動かないかをたしかめた。
「これで、もう転がらんな」
「よかった!」

六人は、もう一つのたるも同じように横にした。
さっきよりも手ぎわよく、ゆっくり転がしていく。
二つ目のたるも、かべぎわの場所へ運ぶことができた。
アカリは、階段の入り口を見た。
さっきまで大きなたるがふさいでいたところに、人が通れる道ができている。
「やった! 通れるよ!」
ソラがうれしそうに階段へ近づいた。
「早くウサギを見つけたいな!」
「足元をたしかめながら行くんじゃよ」とシンが言った。
アカリは、動かしたたるをふり返った。
「最初は、持ち上げることしか考えてなかったんだ」
「じゃが、ちがう動かし方を見つけたのう」とシン。
アカリは、にっこり笑った。
「うん! 丸いものは、転がして運べるんだね!」
六人は、石のらせん階段を上り始めた。
階段は、ぐるぐると曲がりながら、上へつづいている。
細い窓から、明るい光がさしこんでいた。
「わあ、ずっと上までつづいてる!」とソラ。
ルウは、みんなのそばを飛んだ。
「ウサギも、こっちへ行ったのかな?」
そのとき、上の方から小さな音が聞こえた。
とん、とん。
ソラは足を止めた。
「今の、ウサギの足音かな?」
アカリは階段の先を見上げた。
「きっと、この上だよ!」
六人は顔を見合わせ、塔の上へ進んでいった。